2015年5月5日火曜日

大地を踏みしめ、地平線の彼方へ 2 - ディアー(DE)のレビュー -

おれは町へ乗りこんで連中をぶっ殺してやりてえよ。なんだってみんなをトラクターで追い出しやがったんだ。〝収益〟ってやつのために何をしやがるんだ。おれのおやじは地面の上で死にかけた。ジョーはでかい声で産声上げた。おれは夜、藪の中で雄山羊みてえに女の子とやった。なのにやつらは何をしやがった。この辺の土地がよくないのは誰だって知っていることだ。この何年かはどこの畑でもろくな収穫はなかった。それをあの机で仕事するくそ野郎どもは収益〟のためだとか言って、俺たちをぶった切っちまった。
ジョン・スタインベック 『怒りの葡萄』 黒原敏行・訳 ハヤカワepi文庫
1930年代の米国で小作人たちを、血と汗と誇りの浸み込んだ土地から追い出した犯人は、おそらくこやつら↓の祖先です。

John Deere 6220 / mahatsorri
でもトラクターは、たんなる実行犯に過ぎません。黒幕は銀行、さらに言うなら資本主義そのものです。

というわけで、資本主義の兵隊を生産・販売している11年連続増配中のディア(DE)、先日の記事の理由でちょっと興味をひかれたのと、最近御大バフェットさんがポジションを増やしたらしいので2014年のアニュアルレポートを読んでみました。

ただきちんと読み込む時間がなくRami Alsamaraee氏のOpportunities Abound For Deere & Co. In The Long Run』と、Alfa World氏の『Deere & Company: Long-Term OutlookLooks Good But Wait For A Dip To Buy』の記事を参考にしています。

まずはRevenueと一株当たりの指標の推移。


ソースはモーニングスターのサイト
2014年度はRevenue、Operating margin、EPSが下がっていますね。Revenueは5%低下です。

以前にDEのセグメントをレビューしましたが、一番大きなセグメントであるAgriculture & Turf (A&T)が足をひっぱったようです。Net Salesが9%減、純粋にVolumeが減少しているのが大きく、あとLandscape & Water部門の売却と為替の影響もあるようです。

Construction & Forestry (C&F)とFinancial Serviceは良かったみたいです。C&FはNet salesが12%増、Volumeが増えてPricingもいいみたいですね。Financial ServiceもOperating Profitが6%増加です。

ただし直近の業績の予測はよくないですね。2015年度のSalesは15%減るだろうとのことで、とくにA&Tは20%減の予測です。世界的に農業分野の景気がいまひとつとのこと、どうしたんでしょうね?


Ran like a Deere / PaulAdamsPhotography
Deere & Company: Long-Term OutlookLooks Good But Wait For A Dip To Buy』の記事によると、過去2年間穀物の価格が低調とのことで、例えばトウモロコシは2012年来50%以上も価格が下がっているようです。これはとても気候に恵まれて収穫が上出来だったことに依るようです(面倒くさいのでウラはとっていません)。

ふーん、知らなかった。そういえば一時期バイオマスエタノールだのなんだので、食料品争奪戦だあ、みたいなニュースがよくありましたが最近見ないですね。たんに収穫がよけりゃ静かで、悪けりゃネタにするという、いつもの報道ステーション的なノリですかな。

それで収入が芳しくない農業経営者たちは当然のことながら設備投資には躊躇するわけで、その結果がこれです。しかたありません。

C&Fは米国の良好な住宅建設事情を反映し、2015年度のSalesは5%増を見込んでいます。

では次に、キャッシュフローの推移をみます。


ソースはモーニングスターのサイト
ソースはアニュアルレポートより、項目は適当にまとめています
前にも書きましたが結構Capital Spendingが多いです。過去数年間に7つの工場を建設していますし、2014年度にはブラジルでC&Fの工場もオープンし、アイオワでのエンジニアリングセンターの拡張も行ってR&Dの向上も図っています。

世界的な人口増加による食糧需要増を取りこぼすまいと頑張っていますね。

ただちょっとわからないのが投資キャッシュフローの中身。12年度と13年度の金額が営業キャッシュフローよりでかいので、中身をしらべると以下の通りになります。


これをグラフに直すと

一番左のポジティブな値のCollections of receivables (excluding receivable related to sales)と真ん中付近のネガティブな値のCost of receivables acquired (excluding receivables related to sales)が大きな割合を占めています。

これらがどういう意味なのかきちんと理解できていません。察するにFinancial Service(顧客へのローンやリースなど)でのお金の動きを現しているのかと思うのですが、いろいろ調べたのですが現時点の私の知識ではきちんと理解していません。もし詳しい方がおられましたらご教授いただければ幸いです。

あと、目を引くのは巨額の長期負債借り入れと自社株買いですね。アニュアルレポートでも自社株買いをやっているのでEPSの落ち込みはIncomeの落ち込みより軽かったぜとか言っています。私から見るとなんだかねーという感じなのですが、なんかバフェットさんの保有銘柄はこういうのが多い感じがしないでもないので、御大好みかなあ。

てなわけで配当性向は:
ソースはモーニングスターのサイト
フリーキャッシュフローに対しては高い数値になっていますが、EPSに対するそれは2014年度で26%となっています。まあ自社株買いのバッファーが巨大ですからねえ・・・

バランスシートは:
Yahoo! Financeより、項目は適当にまとめています
流動性資産が流動性負債に比べて十分大きいので、いいんじゃないでしょうか。

Opportunities Abound For Deere & Co. In The Long Run』の記事によると、DEの強みとして、特に北米でのA&Tにおける圧倒的なブランド力と最大のディーラーネットワークが挙げられています。FEET ON THE GROUND.

実際のところ自分の目で確かめる術が私にはない(アメリカの田舎をドライブする機会があっても、いちいちトラクターまで見ない)ので素直にRami Alsamaraee氏の意見を信じてみますと、農業立国でもある米国市場での存在感はこれは頼もしい。
John Deere / Charles & Hudson 

これからどんどん農業分野での効率化が進むであろう南米・アジアへの積極的な投資もおこなっています。EYES ON THE HORIZON.

世界の人口は増え続けますし、ミドルクラスも増えることでしょう。そうなれば食糧、とくに穀物の需要は増え続けます。ちなみに1995年以来、トウモロコシの需要は80%増、大豆も2倍以上とのことです(アニュアルレポート)。

たとえそれが遺伝子組み換えであろうとなかろうと、それが食糧向けであろうと燃料向けであろうと、人々の嗜好がジャンクから健康なものへと変わろうがどうであろうが、DEのトラクターは稼働します。

それからC&Fでは北米を中心に世界のインフラ需要が増えるようであれば、その恩恵も受けることでしょう。
Deere 120C / SoulRider.222

今はいいですが、いずれまた古館伊知郎氏が青筋立てて「世界の食料が逼迫しております、我々の命の糧の値上がりがとまりません、可及的速やかに政府には何とかしてもらわないと!」と叫ぶ日が来るのはまず間違いないです。毎年豊作が続くわけはないのですから。

その時のための保険としてもDEは良い銘柄かもしれません。業績がパッとしていない今が獲得のチャンスかなあ。

情報開示:とくになし

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