2015年8月15日土曜日

配当を転がせ - 『マネー・ボール』を読んで -

 守備ができなくても、アスレチックスとしてはべつにかまわなかった。出塁率さえよければ、守備が悪くても問題ない。そのぶん安ければいい。よく使う手として、野球人生にかかわる大けがをした直後に、その選手と交渉する。ビリービーンはよく、ウォール街の投資家ウォーレン・バフェットの言葉を引用する。「最も難しいのは、いい投資先を見つけることだ」
マイケル・ルイス 『マネー・ボール〔完全版〕』 中山 宥・訳 ハヤカワ ノンフィクション文庫
仕事と育児でてんてこ舞いで、なかなか本を読む時間がないのですが、先日また出張に行った際、飛行機の中でこの『マネーボール』を一気読みしました。めっぽう面白い。御大バフェットにたいするウォール街の投資家という形容が、あっているのかどうかは疑問ですが。

この本は、ポストシーズンにわりかし常連で、ダルビッシュ投手の天敵でもあるオークランド・アスレチックスのゼネラルマネージャー、ビリー・ビーン(かつては将来を嘱望された元メジャー・リーガー)が、かなり限られた資金でチームを強豪に作り上げ、運営する様子が描かれています。

いささか都合の悪いことに、今シーズンの同チームは、ア・リーグ西地区で最下位のようです・・・

えーと、気を取り直して・・・この本に書かれているアスレチックスの選手の獲得方針は、私にとっては、今後のThe 3rd Man's  Fundの銘柄補強をするに当たり、とても示唆に富んだ内容でした。ちょっと考えをたことを列挙してみます。素人の戯言にすぎませんが。

 過去のドラフトの結果から言って、高卒の投手がメジャーに昇格できる可能性は、大卒の投手に比べて半分以下、大卒の野手と比べると四分の一に過ぎない。 (P36)
選手がどう見えるか、将来どうなりそうかといった主観的な評価よりも、現実にどんな成績を残しているかが重要 (P71)

私が、将来のあるべき姿を想像しながら有望な銘柄を獲得し、その株価が数年以内に10倍になったりする可能性は、もっと低いんでしょうな。もちろんそんな経験は無い。

・・・まあ、FMはNHKしか聴けなかったような片田舎に住んでいたにもかかわらず『ヨシュア・ツリー』前からのU2(with ブライアン・イーノ)の大ファン(友人たちから結構バカにされたけど、いまでもアルバム『焔』が一番好き。デュラン・デュランなんぞ糞くらえだ)だったり、連ドラ出演前から尾野真知子さんが一押しだったりしたのだが(NHKドラマ『火の魚』、『外事警察』がよかった)、そんなもん、なんの足しにもならない。

ではビリー・ビーン氏、及びその補佐役ポール・デポデスタ氏は、野手に対してどんな成績を重視しているのでしょう。得点圏打率? ホームラン数? 

出塁率と、一打席あたりの投球数とが圧倒的に重要であること。(P36)
ストライクゾーンをあやつる術を身に着けているかどうか、最もわかりやすい指標が四球の数なのだ (P64)
出塁の才能は、ほかの能力にくらべて著しく過小評価されているのだ。四球による地味な出塁となればなおさらだろう。(P203)

いやはや、地味なところに目をつけたものですね。でもハーバード大の経済学部を優等で卒業したポールによると、これがもっとも得点につながるようで・・・。

株式投資に当てはめると、もちろん自在にストライクゾーン(マーケットに置き換える)をあやつる企業に投資するのが王道ですね。自身の事業をよく認識していて、なおかつプライシング等でマーケットの主導権をとれる企業、御大バフェットの言うところのワイド・モートを持つ企業です。

これを見つけるのは、それこそ御大のような目利きが必要で、そう簡単ではなく・・・であるならば、ストライクゾーンをあやつる術の指標である四球を配当に置き換えてみればいいかと、私ごときは思ったりするのです。

株式を公開している限り、株式会社のレゾンデートルは、株主に利益をもたらすことです。その手段の一つ、配当を

1)きちんと出しているか否か
2)さらに増配当を継続しているか

という結果が、ストライクゾーンをあやつる術を身に着けている企業かどうかを測るよい指標と言えるのではないでしょうか。

なにせ長年配当を続けるということは、長年利益を上げ続ける、およびキャッシュフローをコントロールし続けるということなので、マーケットを操りかつ経営戦略も秀でている企業と言えると思います。

これだけに頼っていると、結局のところ“ワイドナ”モート企業ばっかりを掴みかねませんけれど・・・。

試行錯誤の末、いままでになく正確にチームの得点力を表せる数式を発見した。出塁率と長打率に三対一の比重を与えればいい。 (P203) 

出塁が配当とすると、長打は連続増配当継続年数とみてもいいかもしれない。配当率x年数で、なんらかの指標をつくれないかな、PERみたいな。ここに増配当率も加えたりしてみてもいいかもしれない

こうして出塁率を重視して補強するぶんには、驚くほど安く済む。もちろん、安く買うからには、出塁率以外の長所はあきらめなければならない。補強用の選手には、五五メートル走でホットドッグ屋に勝てる能力は無いかもしれない。(P221)

ひきかえに株価X倍のわくわく感は犠牲にするしかないですなあ。

それでどういうタイミングで狙いを定めた選手を獲得する?
錯覚に惑わされているとき、現実を見据えられる別の人間にとっては金儲けのチャンスだ。 (P40)
いや、他球団で″欠陥品″とみなされてしまっただけで、ポールは“傷物”という言葉で評価する。「傷があって、傷の存在をみんな知っているけれど、でもじつはたいして重大な傷ではない。そういう傷物の選手を発見するとわくわくします」 (P233)
そうですね、米国株式でいうとグーグルやアマゾンやアリババみたいな将来に夢を持たせてくれるような銘柄ではなく、株価が3年間でほぼ横ばいであろうが地味に配当を継続している企業を見つけておき、それが何らかの錯覚や、傷物と思われたせいで安くなったとき、ということです。

錯覚とは、たとえば先進国は健康志向なので喫煙率は減りタバコ企業の未来は無い、同じく炭酸飲料水の企業も、それからオンラインショップの隆盛を鑑みるとリアルなスーパーも云々カンヌン、といったところですかな。

もちろん錯覚ではないかもしれません。昨今の原油価格はどうでしょう、何年か後には蜃気楼だったりして。

傷物と言えば、かつて御大がアメリカンエクスプレスを購入した時のような、企業価値の本質的には問題の無かった不祥事に置き換えられると思います。数年前のジョンソンアンドジョンソン(JNJ)のリスペリドン、少し前のターゲット(TGT)のデータ流出もそういえるかもしれません。

結果として、20人の候補者リストのなかからなんと一三人も獲得できた。投手四人に打者九人。自軍のスカウトたちが「背が低すぎ」「やせすぎ」「太りすぎ」「足が遅すぎ」と切り捨てていた選手ばかりだ。 (P187)

こういう企業を集めて結果的にながーいシーズン後に、プレーオフ進出できればいいかなあ。

私の場合は、ほぼS&P500にリストアップされている企業しか獲得候補にならないので、うーん、上記の基準に沿ってやっていくと、かつて(そうとう昔)の阪神タイガースの大型FA補強のような結果になりかねない気もしますが・・・。


にしても『マネー・ボール』、あまりにも面白かったので、今はマイケル・ルイスの『世紀の空売り‐世界経済の破綻に賭けた男たち』を読んでいます。こちらもなかなか。


情報開示:この記事を書いている時点でJNJ174株、TGT43株保有


なお、もともと『マネー・ボール』は2003年に書かれたので、現在のアスレチックスの戦い方や補強の方針は、当時と比べると、ある程度変わってきているようです。



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