2016年5月12日木曜日

終わりのないブルーズ(石油界隈) その1

 エディがいった。テキサスシティ、金のにおいだ。彼は北側、低湿地の向こうを指した。もつれるようにして立ち並ぶ黒と灰色の煙突が、遠方のぼんやりとした景色を縁取っている。製油所と石油化学プラントのだ。みんな、あそこで働いている。
 勝手に働いていろ、レイ・ボブがいった。あいつらはみんな馬鹿だ。おれは絶対、あの手の場所じゃ働かない。有毒廃棄物のゴミためなんかじゃ。鼻が完全に馬鹿になっちゃう。
 払いはいいわ。物静かな声で、バックシートのデラがいった。
 そんなにはよかない、とエディ。彼は彼女を見返した。ああいうところにいると、癌になる。ひどいやつに。癌になりたい?

クリストファー・クック 『終わりのないブルーズ』 奥田祐士・訳 ヴィレッジブックス


米国のディープサウスを徘徊する悪党たちと、彼らを追うテキサスレンジャーを描いたノワール小説の傑作、『終わりのないブルーズ』は、舞台である米国のディープサウスの雰囲気をうまく醸し出していると思います。


読んでいるとじっとりと汗ばんできます。梅雨時のじめじめした季節にR.E.M.のDriveとかを聴きながら読むにはぴったりです。Nobody tells you where to go, baby...


ドクターペッパー片手に読むと、なおさらいいかもしれません。(関連記事:米大陸のガラパゴス銘柄、ドクターペッパー・スナップル・グループ(DPS)の増配


いや、実のところ、私は米国の南部には足を踏み入れたことはないんだけど・・・。


さて、The 3rd Man's  Fundが組み入れている原石油銘柄をレビューしてみます。彼らは原油価格下落を受けて終わりのないブルーズ状態です。以下、表の数値のソースは、各銘柄のアニュアルレポート。

まずはシェブロン(CVX)の2015年度の財務3表。






こういう状況下になってくると、BSのProperty Plant & Equipmentが本当にこれだけの価値があるのか心配になってきますね。アインホーン氏がビデオカメラ片手にハンティング帽をかぶってナイジェリアやベネズエラまで探検なんぞに出かけないことを願うのみ(参考図書:川上穣 『リスク・テイカーズ』 日本経済新聞出版社)


キャッシュフローを見ると、Capexがここ最近ずっとでかいですね。FY15では、もう配当するためにDebt issueしとるようなもんです。



CEOのワトソン氏は、BSやキャッシュフローの動向が許す限り配当は保つ・・・としています。FY16のcapitalとexploratoryの予算は前年度比22%カットするんだとか。

あんまり無理すんなよ、ワトソンくん。


ちなみにPLの前年度比は左図のとおりです。


Revenueが-35%、COGSが-42%、販売費・一般管理費(Operating expenseを含めています)が-8%となっています。


その他に含まれているので一番大きな割合を占めるは、減価償却や減損処理で、これが前年度比25%アップ。これが利益を食いつぶしていますね。


次にエクソンモービル(XOM)。





BSとPLを比べてみると、XOMのBSはCVXより軽いですね。まあProperty Plant & Equipmentが本当にこれだけの価値があるのか・・・っていうのはね・・・。


アインホーン氏がビデオカメラ片手にNYのウェストチェスターの自宅を出たら、デューク・トウゴウ氏を雇うなりなんなりして、なんとしても阻止することですな。そういうのは得意でしょ? えっ、そうじゃない!? そりゃ失礼。


PLの前年度比は右図のとおりです。


Revenueが-35%、COGSが-42%、販売費・一般管理費(Operating expenseを含めています)が-14%となっています。


CVXと異なり、減価償却や減損処理は増えていません。逆に微減です。


2016年3月15日の日本経済新聞に、『逆風下 エクソン底堅く』という記事がありました。

なんでも原油高局面でライバル企業(CVXとかBPとか)が開発・生産の上流部門にイケイケどんどんと投資していたのに対し、XOMはいち早く投資を抑制していたのだとか。

XOMとCVXのキャッシュフローを見るとなんとなくそのへんが表れていますな。


XOMは逆に製油所などの下流分野に投資していて、これは当時投資家からいぶかしがられたらしい。なんで利益の低い分野に注力するのか・・・と。


上流部門で資材・サービス費用が高騰して収益率が鈍くなっていたのを受けての判断だったそうですが、現在これが見事に功を奏している形になっています。


原油の仕入れコストは低下したけど、ガソリン等の石油製品の下落は限定的だったので、下流部門のマージンが拡大しているそうです。その結果、上流部門におおきく依存している他社に比べ、XOMは業績が底堅く推移しています。

それでXOMは、2/29に社債発行で120億ドル調達し、権益の買収に力を入れているとのこと。(日本経済新聞、2016/3/15、稲井創一氏の記事)


CVXとかが泣きっ面でいるときに、着々と次の一手を打っていますね。


お見事。周囲が浮かれているときは控えめに、格付け会社が「やめとき」と言うときには積極的に。蝶のように舞い、ハチのように刺す。


いちおうリーマン・ショック・サバイバーである私は、いやもう、バブルだけはなんとか嗅ぎ分けようと注意を怠らなかったつもりではありますが、ついぞ原油価格が高すぎるとは思っていなかったですね。


航空料金のオイルサーチャージなんて当たり前になっていた。それに新興国の需要は旺盛で、たとえば中国がありとあらゆる資源を食いつくす、と論ずる書籍もけっこう出てましたしね。

でも、その動きから判断するに、御大バフェットは、嗅ぎつけていたんでしょうな、シェール革命が原油価格に何をもたらし、その結果何が起こるかを。その上流から下流へのアクションはビューティフルでした。

で、嗅覚のない私は2013年にCVXを2回にわけて購入していますが、CVXを選んだわけは、

  • 原油の需要は今後も引き続き好調だろう、原油価格もしかり(このころシェール革命の及ぼす影響なんて想像だにしなかった)
  • 他社と比較して配当率が高め
  • 米国出張時に必ず立ち寄るガスステーションがシェブロンだった
いやあ、こりゃ理由になっていないな、恥ずかしい。原油高で調子こいていた企業の銘柄をつかんでしまった。

いっそのこと資産運用をXOMにおまかせしたいっす。


CVXですが、さしあたりは静観です。以前に書いたようにメジャー一社にしぼると、流出事故とかが起こった時のインパクトがでかそうなので。(参考記事 資源株式の調査 その1) 終わりのないブルーズをどこまでもランデブーや。


というわけで、いまのところは特に動かず・・・でもXOMは追加したい。


情報開示:この記事を書いている時点でCVX64株、XOM67株保有


随分以前の話ですが、米国で車を運転していたら、前を、ナンバープレートにPearl Harbor Survivorと記載されている車が走っていました。恐れ入りました。


0 件のコメント:

コメントを投稿