2014年11月7日金曜日

金融危機下の英雄 2005-2009 -コカ・コーラ(KO)-

「フラウ・リヒター? すばらしい。トミー・ブルーだ。何にします?」
相手の手があまりにも小さかったので、ブルーは思わず握手の力を弱めた。
「水はあるかしら」眼鏡越しにぎょろりと見上げて訊いた。
「もちろん」手を上げて給仕を呼んだ。「歩いてきたのかな?」
「自転車で。炭酸なしでお願いします。レモンも入れずに、室温で」
ジョン・ル・カレ 『誰よりも狙われた男』 加賀山卓郎訳 ハヤカワ文庫
引き続きコカ・コーラ(KO)のキャッシュフローを追っていきます。今回は2005年から2009年です。とうとう先の金融危機が発生した期間にはいってきました。まずはKOの株価の動向をみてみます。




Yahoo! Financeより
Yahoo! Financeより

上のチャートはKOの株価のみ、下はS&P500と比較したものです。


前回まで見てきたところ、KOの株価はドットコムバブルのあおりを食ったような感じで、業績と比べるとアンダーバリューな印象でした。その遅れ?を取り戻すべくKOの株価は2007年あたりから上昇しています。でもまあ、このころはS&P500も日経平均もイケイケでしたね。


ただしサブプライム問題でS&P500がぐずぐずし始めてもKOは粘り強く2007年末付近まで上昇しています。では2005年と2006年のキャッシュフローのウォーターフォールチャートを見てみます。

これ以下に記載されているグラフは全てアニュアルレポートの数字をもとに作成されています。 

いいですね。好調な世界経済(とはいっても以前述べたとおり米国の新規住宅着工許可数とかは異変が起こりつつあったのですが)と足並みをそろえるかのような、私に言わせるとBeautifulなチャートです。



ところが2007年に少しおかしくなります。


投資のコストが増えてます。ほとんど営業キャッシュフローと同じくらいです。それでこれまでとは債券発行額の規模が違います。どうしたのかな。


どうやら、好調な世界経済を追い風にしたのかどうかはわかりませんが、結構買収をしていたようです。例をあげると

  • ドイツでのボトリングと配送事業
  • Glacea・・・ウォーターのブランドを展開する企業
  • Coca Cola Bottlers Phillipines Inc.
  • Fuze・・・米国でのジュースやTeaを手がける企業
  • Leao Junior・・・ブラジルのハーブドリンクの企業

等々です。とくにボトラーズ関係は設備コストがかかるようでCapexが大きくなります。そんなこんなでお金が必要だったのでしょう。着実に非炭酸の強化に努めていますね。ま、ご時勢ですな。「水はあるかしら、炭酸なしでお願いします、レモンも入れずに、室温で」


で、2009年。2008年にリーマンブラザーズが倒れ、さしもの英雄KOの株価も急落し、実体経済もひどいことになります。私の勤め先も米国を中心にけっこうなリストラがありました。その時期のKOのキャッシュフローはというと、



おお、案に反し2009年は営業活動によるキャッシュフローが伸びていますね。ちなみにアニュアルレポートによるとUnit case volumeだと2008年から2009年にかけては、世界全体で約3%の伸びです。みな急激な株価下落と不況でノドが乾いたのでしょうか。

北米とヨーロッパ以外は伸びていますね。うまく新興国の需要増を取り込んでいたようです。北米では非炭酸飲料が増加していたようですが、ウォーターの需要減が足を引っ張ったようで・・・その理由は利益が薄いボリュームディスカウントには追随しないことにしたからとのこと・・・さすが英雄。


ただ2009年から債券発行額が、債務支払いの額と共に、段違いにでかくなっています。これが今回KOのキャッシュフローを追いかけはじめた理由です。なんですか、これは!?


まず前提としてKOは、基本的に配当・自社株買い・Capex・買収等は営業活動によるキャシュフローからまかなうとし、そのキャッシュを稼ぐ力には絶大なる自信を持っていると高らかに宣言しております。しかしそれでもAdditionalなキャッシュが必要な場合は、株式を発行せず、代わりに債券を発行することで株主へのリターンを守り、コストも抑えるとしております。


じゃ、どういう目的でAdditionalなキャッシュが必要だったんだろ?


このあたりの知識が乏しい私の理解なので自信がないのですが・・・まずこの不況下で、KOが発行するコマーシャルペーパー(以前のエントリーで勉強した)の金利がとても有利なものになった、だから、それで得たキャッシュで3か月以上の定期預金(time deposit)に投資を始めたと書いてあります・・・


金利の鞘を抜いているのでしょうか!?


コマーシャルペーパーの償還期限は短いので、それを返済(という表現でいいのか?)し、また低い金利でペーパー発行して、それよりは金利の高い定期預金に投資し・・・ということを繰り返しているっぽい・・・正しく理解できているかどうかわからないけど、どうもアニュアルレポートを読んだ限り、そう書いてある。財務の人は暇なのか? それともこれがMBAとかで習うスマートな経営手法なのだろうか? まったく奇々怪々である。


結果としてBSは、KOとしては珍しく流動性資産が流動性負債を上回っていますね。なんだかなー。





次回は2010-2013のフローを追ってみますが、果たしてずっとこれを続けているのでしょうか。

最後に1994年から2009年までの5年ごとのキャッシュフローと負債の推移をまとめています。





Short termはloans and notespayable + current maturities of long term debt

情報開示:KO430株保有



2 件のコメント:

  1. こんにちは。毎度分析ご苦労さまです。
    買収のことですが、別ブランド買収はまだ許容できるとしても、ボトラーズ買収は必要性がなんだか意味不明ですね。
    炭酸水とまぜる工程以降は他社にまかせておくほうが良いと思いますが、余計なキャッシュが経営陣に余計なことをさせてしまうのでしょうか。

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    1. FDG金星人さん、こんにちは。そうですね、ボトラーズ買収はどういう狙いなのか、不勉強で今一つわかりません。経営陣から株主への「仕事をやっているんだぞ」というアピールのためだけでないことを願いますが・・・。

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