2016年1月15日金曜日

故郷の行方、人々の向かう先、そして The Boss

Now Main Street's whitewashed windows and vacant stores
Seems like there ain't nobody wants to come down here no more
『My Hometown』 played by Bruce Springsteen & The E Street Band

今年の正月は、妻と私の故郷に帰省しました。昨年は妻が妊娠していたので、2年ぶりとなりました。妻も私も西日本の田舎出身です。

初旅行となった生後11か月のムスメを抱っこして、一番最寄りではあるものの、家から歩いて20分程度の街外れにあるのセブンイレブン(1)まで、甥っ子姪っ子たちへのお年玉資金を調達するために(2)、のんびり歩きます。天気も上々、年の瀬にしては汗ばむくらいの陽気で、絶好の散歩日和です。

1. わが故郷にコンビニが進出してきたのは8年ほど前。母に「こんびにって何?」と真顔で訊かれて絶句した記憶がある。かくいう私も高校を卒業するまでその存在を知らなかった。24時間営業と知って、ただただクレイジーだという感想しか持たなかったですね。夜中にプラスチック包装されたおにぎりを買いに行くとは、どういう神経なんだ⁉
2. この分野でのインフレは、日銀の黒田総裁も真っ青なレベルなのではないでしょうか。ああ、しかし、確実に少子化の波を受けているので(昔は私自身も含め、3人以上の兄弟・姉妹が親戚間で割と当たり前だった)、トータルで見ると私の親世代より負担は少ないのかもしれない。

昔なら見えなかった山々が、実家の前の通りから、すとーんと見渡せます。私が記憶しているより、街がずいぶん明るくすっきり感じます。なぜだろう?

理由は明快、昔と比べて圧倒的に人と建物の数が少なくなっているからです。

以前は、たとえ年末といえども、多くの老人が杖や手押し車を手に取って、よたよたとよろめくように通りを歩き、その間を縫うように部活帰りの中・高生が切れ目なく自転車をかっ飛ばし、さらには早くも正月気分の子供たちがコマを廻したりしていました。そしてそれらすべてを路上から一掃せんとばかりに、おばちゃんたちが運転する軽が疾走していったものです。

やがてその老人たちは世を去り、子供たちは学と職を求めて故郷を去り、主を失った家々は壊されて更地になり(3)、一掃する対象を失ったおばちゃんたちは老いて外出は控えめになり、結果、日当たりと見通しが良く、人のいない歩行者天国のような通りが残され、私はそこをムスメを抱っこしながらコンビニへと歩を進めていきます。

3. 古い木造の家の瓦は重いので、ほおっておくと文字通り家が傾くので危険。まじめな話、別の意味でのハザードマップが必要な個所や通りがある。

同級生が住んでいた家は売りに出されて久しく...


メインストリートのお店は伽藍洞...

もう列車が走ることはない...

なかでも驚いたのは、家々に囲まれた畑の周りをかこっているネット。こんなの昔は無かったぞ。

なんでも夜中にシカが山から下りてきて作物を食い荒らしてしまうので、その対策なのだとか。シカだと⁉ いくら田舎とはいえ、私が子供のころはシカは動物園で見るものだった。(4)

4.小学生低学年のころ、裏山でシカを目撃したと言う同級生を、ほら吹き呼ばわりして泣かせてしまったことがある。高校のとき、バスケ部の最後の公式戦で負けた翌日、虚脱感を胸に抱いて飼い犬と一緒に山を放浪した私は、シカの親子と遭遇した。
Mくん、オレが悪かったよ。
ところで私は、できれば今年Deere hunterになりたいと考えています。根拠は2016年の楽しみと配当再投資 -マコーミック(MKC)の追加獲得-に書いてあります。

隣町に小さな公営動物園があり、昔はシカのコーナーがあったのだが、いまは別の動物が展示されているらしい。もうシカはそこらへんで見ることのできる、ネコやイヌ並みにありふれて、かつタチの悪い動物になってしまったからだそうです。

Wildlife is striking back...

で、高校を卒業するまでここで過ごしていた私は、いただいたお年玉でせっせと洋楽のLPレコードを買い込んでいたのでした。U2、Bryan Adams、The Police、Dire Straits、John Mellencamp等々、そして"The Boss" Bruce Springsteen(5)

5. 田舎者の中学生だった私は、TVでこの『ダンシング・イン・ザ・ダーク』のビデオクリップを見て、完膚なきまでにノックアウトされたわけです。正確にはSpringsteen本人ではなく、最後に一緒に踊るショートヘア・ビューティにやられたのですが。Even if we are just dancing in the dark...でも2013年のライブのやつも圧巻、いや、もうThe Bossの貫禄十分、You look good!!! Hey baby!!!

彼の大ヒットアルバムの『ボーン・イン・ザ・USA』に収録されている、とても印象的な曲『My Hometown』は、不況で故郷を去りゆく男の歌です。

Last night me and Kate, we laid in bed, talking about getting out
Packing up our bags, maybe heading south

ケイト(おそらく妻)とベッドの中で話し合っています。荷物をまとめて、そうだな、南にでも向かうか...

1980年代前半の米国は、極東の島国のエコノミックアニマル(日本)とロックバルーンは99(6)な連中(西ドイツ)に押され、不況にあえいでいました。B. Springsteenはニュージャージー出身なんで、なんとなくこの曲の男性の設定も、フィラデルフィア郊外在住なんじゃないかなあと思っています(7)

6. 私の洋楽への目覚めはこれから始まる。中一の私には英語とドイツ語の区別がついていなかった。ああ、麗しのNena...
7. 参考資料 Streets Of Philadelphia』by B. Springsteen 実はフィラデルフィア郊外に一時期住んでいたことがあって、うーん、90年代初めのかの地の雰囲気がよくでています。いまはどうなっているのだろう。

彼は息子を自分の前に座らせて車を運転し、街を流しながら言い聞かせます。

Take a good look around, this is your hometown.

彼らは結局どこに向かったのでしょう。南部に向かったのでしょうか。どこかの油田で雇われたかな(8)

8. B. Springsteenはどちらかというとブルーワーカーを描いた歌が多いです。ですので、この曲の男性も決してMemphisの法律事務所に職を得たわけではないと思う、J. グリシャムの小説の主人公がそうだったように。

先日(12日)、NHK BSを観ていたら、夜10時からの国際報道の番組で『米経済の強さの秘密は南部に!』と題された特集をやっていました。なんでもメルセデスベンツやトヨタ、TOTOとかが米南部の州にどんどん拠点をつくっているようです。

理由は、そのあたりにヒスパニックやアジアの移民が増えているからで、彼らの比較的安い労働コストや手先の器用さ目当てのようです。さらにはその移民自体が生み出している購買力(Spending powerとか言っていた)もどんどん伸びているようです。レバレッジ効かせてクルマとか買ってそうだな...

ここが米国の強いところです。どこかの地域が衰えても、なにかの産業が黄昏ても、必ず別の新たな人々が新たな活力を作り出します。いつだって世界中から富や機会を追い求めて、あるいは貧困や不平等から逃れるために人々がやってくるのです、新たなアイデアやスキルとともに。

たとえボーイングの輝きが衰えたとしても、スタバやアマゾンが誕生し、たとえ東部の大都市が沈下したとしても、シェールガスとともに砂漠に忽然と街が誕生するのが米国です。

今から約20年後の米国の人口ピラミッドは以下の通り。
ソースはUnited States Census Bureauのサイト  (2014年9月時点でダウンロードしたデータをもとに作成)
働き盛りで購買力旺盛な世代の人口が一番多いです。この米国のダイナミズムを見れば、かの国の企業に投資しておけば、マズイことにはならないんじゃないかな(9)

9. もちろん他国、とくに新興国でも若い人口が増える国・地域はあります。しかしなかなか米国ほど、その人口増を生かし切れる土壌がある国・地域は無いのではないか。

2016年1月10日の日本経済新聞13面に小柳建彦氏による『アジア人口動態 新局面』という記事がありました。
経済の潜在成長力を大きく左右する人口動態ですが、世界銀行によると

10~40年の間に中国で9000万人、日本で2000万人、韓国で750万人、台湾で600万人の生産年齢人口が東アジアで減る見通しだ。

とのことです。うーむ、何年か前に老いゆくアジアみたいなタイトルの本がありましたね。そうか、東アジアはどんどんドリー・ファンク・ジュニアになっていくのか。
小柳氏は、経済成長力が高まる人口ボーナスの実現には

就職可能な知識と能力を浸透させる教育と、育てた人材を吸収する雇用が重要だ。どちらが欠けても失業者が増え、経済負担が増す。

としています。なるほど、たんに若年層が増えたから国が栄えるという単純なものではないのですね。そりゃ、そうですね。それで氏は、これからの世界経済の成長ペースはインドやインドネシアが人口ボーナス期を生かせるかどうかにかかっているとしています。私は個人的にフィリピンもここに加えたい。これらの国の政治情勢は要フォローですな。フィリピンは今年大統領選挙、インドはモディ氏、インドネシアはジョコ氏。

モディ氏はともかく、ジョコ氏は、あの高速鉄道誘致の顛末をみていると、なんだかなあという感じですね。

それにしても何年か後、私は故郷をドライブしながらムスメに向かってこう言うのだろうか。

ムスメよ、よく見ておくれ。信じようと信じまいと、その昔、ここにはシカはいなかったんだ、ヒトがいたんだよ。This is my hometown.

情報開示:とくになし

当エントリーは先日読み終えたポール・オースター著の『オラクル・ナイト』(柴田元幸・訳 新潮文庫)に影響されて、変な試みをしています。この小説は面白かった。

【関連資料】世界の人口動態に関してはこちら

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