2017年3月18日土曜日

デススター、反乱軍、そしてミルク殺人

Sir, we're detecting a massive object emerging from hyperspace.
映画『ローグ・ワン』より、忽然と現れたアレを目の当たりにした反乱軍兵士のセリフ
さて、ゼネラル・ミルズ(GIS)とJMスマッカー(SJM)のどちらをThe 3rd Man's  Fundのコア銘柄の候補にするか・・・を決めるにあたり、参考にしたい雑誌の記事があるので、それをちょっとみてみたいと思います。

少し古いのですが、週刊ダイヤモンドの2016年10/1号で、生活必需品の食品方面でのデススター、ネスレを特集していました。題して「凄いネスレ」・・・もう少しなんとかならなかったのか、このタイトル。


ネスレは既に当ブログでも『ネスレ、その圧倒的な存在感、ネスレ - 生活必需品ジャイアンツによるマニラ攻防戦 その6 -』であっけにとられたように、とてつもなくMassiveな存在です。


この雑誌記事によると、ネスレは遥か昔、ヨーロッパ大陸の彼方でドイツ系の移民だったパルパティーンアンリ・ネスレが乳児用乳製品を開発したことから始まり、米国進出に失敗して失意のライバル会社ダークサイドにひきずりこんだ救済合併したのが帝国の礎で、そのうちベイダー卿ロスチャイルドとタッグを組んで、人脈と金脈を駆使して買収に次ぐ買収で世の中を席巻し、その過程で得たマギーやキットカットなどの製品を自社の販路に乗せて世界的なブランドに育て上げるという、もうなんというか、やりたい放題である私が日々見ている銘柄の教科書的な存在で、悪のまっとうな資本主義の権化である。


かくいう極東の島国の素朴で無垢な田舎の少年であったこの私も、ネスレ帝国のCMに惑わされ洗脳されてしまったのであった(ネスレ、その圧倒的な存在感、ネスレ - 生活必需品ジャイアンツによるマニラ攻防戦 その6 -』)。恐るべし、ネスレ。



欧州にて、向かって左の黄色いのがMaggi、右の緑がクノール(UL)、まんなかはPB製品

雑誌記事によると、ネスレの凄いところとして、その徹底した現地化が挙げられますね。いや、なにせあのマニラの光景はすごかった。現地に埋没してしまうんじゃなしに、ちゃんとこれはNestleの商品だぜ、っというアピールもできています。


現地化経営の手腕もさることながら、雑誌記事ではCSVを意識していて、製品の原材料の調達先である農村等とよい関係を築いている等々も書かれています。


まあ・・・このあたりは雑誌ですからね。記者の皆さんは、締め切りまでに紙面を埋めなければならない。きれいに記事をまとめてくる。


しかし・・・



「牛乳の価格を破壊したって、どういうことだね?」クルフティンガ-は刑事としてではなく、個人的な興味があるようなそぶりで質問した。

「やつがここに来たとたん、チーズ工場は牛乳の買い取り値段を大幅に引き下げたんだ」
「そうじゃない。価格が下がったのは、やつが来てしばらくしてからだった。市場経済なんで仕方がないというのが、やつらの言い分だった。まあ、経済なんてそんなもんだろう。所詮、俺たちは経済的酪農家ってわけさ」

フォルカー・クルプフル / ミハイル・コブル 『ミルク殺人と憂鬱な夏』 岡本朋子・訳 ハヤカワ文庫


ネスレを筆頭に巻き起こされた食のグローバリゼーションの波はドイツの長閑な片田舎の小さな町にも押し寄せ、その軋轢がもとで殺人事件が発生し、死体を見るのが大の苦手なクルフティンガ-警部がいくつかの死体を見る破目になったりしています。


なにごとも雑誌の記事のようにきれいには進まない。



欧州にて
☆☆☆

それはさておき、私としてもぜひThe 3rd Man's  Fundにネスレを加えたいところであるが、残念ながらニューヨーク証券取引所に上場していなくて、私が普段利用している証券会社では取り扱われていない。


ネスレは上場先を四半期決算の開示義務がないスイスに絞っていて、これは帝国の長期的野望を成し遂げるために短期利益を求める株主から距離を保つためなのだとか。デススターにはちゃんとシールドをはっていますね。


そういえば、ひふみ投信の藤野英人氏も四半期ごとの開示には、その業務にかかる負担を考慮して、批判的なことを言っていた記憶があります(ソースははっきり覚えていないですけど...)。藤野氏の場合は特に成長過程の比較的規模の小さい企業を念頭に入れていたような気がしますが。


なるほど、一理あると思います。ただ私は、やはり情報開示の頻度の高さや透明性を強く求められる市場のほうが信頼がおけると考えていて、最終的にはその市場に参加している企業全体の体質や業績の底上げにつながると信じています。


ネスレのような存在はあくまで例外で、一般的な企業は開示義務がゆるいと素直にダレてしまうんではないかと。オヤジから宿題の進捗の開示義務を緩められた途端に堕落した夏休みを過ごしてしまい、2学期の初日に先生方に対して宿題提出の延期の謝罪会見を開かざるを得なくなってしまった少年時代の私のように。


☆☆☆


その私が手を出せないネスレのやつ、厄介なことにヘルスケア方面にスーパーレーザー砲の照準をあわせてきやがった。なにやら


ネスレは世界トップに君臨してきた米ヘルスケア大手アボット・ラボラトリーズにつぐ巨頭へと成長した

週刊ダイヤモンド2016年10/1号、P60

なのだそうである。うーん、由々しき問題だ。最近アボット(ABT)のNutritionが調子悪いのは、これのせいか? なにせネスレ帝国の新興国における存在感てのは半端ないですからね。今度時間があったらまた調べよう。

いずれにせよ、ABTにとっては、"Sir, we're detecting a massive object emerging from the food industry !!!" と思わず叫ばずにはいられない状況ですな。


☆☆☆


なぜネスレがヘルスケア分野に力を入れ始めたのか。


それはプライベートブランド(PB)というやっかいな反乱軍に棚を奪われ始めているからです。記事によると


欧州ではPB化現象が進み、PBが小売店の棚の5割近くを占める国が多い。

週刊ダイヤモンド2016年10/1号、P59

ということです。米国や日本でも反乱軍がじわりと勢力を伸ばしつつあるようで。


欧州にて
その昔、バフェットさんだかマンガーさんだかが、どこの馬の骨とも知れぬチューインガムを人々は噛んだりしないものなんだよ、みたいなことをおっしゃられたようですが、時代は変わったのかもしれません。

反乱軍が仕掛けた局地的ゲリラ先方による食のコモディティ化に体力を奪われてしまう前に、帝国はヘルスケア分野で活路を見出そうとしているのでしょう。もたもたしていると帝国と言えども・・・


☆☆☆


以上、週間ダイヤモンドの記事をざっと見てきましたが、今後の銘柄選択をするにあたり学べることは:


生活必需品、とくに食品関連においては、有象無象の競合他社や反乱軍の製品とは一線を画すエッジのたった製品、この商品は業界の代名詞的なものを持っている会社の銘柄を選ぶ。さもないとゲリラ戦に巻き込まれ、消耗させられる。


ということになるかと思います。


エッジが効いていると思われる例をあげるとすると、飲料になりますが、ドクターペッパー・スナップル(DPS)。なんせルートビールを飲んでいるやつらは、アレ以外の炭酸飲料は飲み物では無いと考えているフシが見受けられますからね。簡単に今日はファンタにしよっか、などという行動は取りそうにないです。


そういう観点から見ていくと・・・


情報開示:この記事を書いている時点でSJM22株、GIS49株、DPS109株、ABT161株保有

クルフティンガ-(中年)警部が獅子奮迅の愉快な活躍をする小説はシリーズ化されているとのこと・・・早川書房には、是非とも翻訳を続けていただきたい。


 

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